ユースケース部会長 保木 健次に聞く!
金融機関の未来

  1. インタビュー

現在97社(2021年12月1日現在)が会員として所属するJCBA。
創立から比較すると事業内容も多岐にわたり新しいメンバーも多くなった一方、設立当初からのメンバーの事業も一段と深耕が進み、業界に提供いただける知見は増える一方です。

コロナ禍で会員同士の交流が希薄化し、協会発の企業間コミュニケーションが生まれにくくなった今、それぞれの会員企業やその代表の方たちが、どんな方で、いま何を考えているか、JCBA広報委員会が取材させていただき、発信することで、会員間の交流やコラボレーションに発展することを願った企画を開始しています。

第3回となる今回は有限責任 あずさ監査法人にお邪魔し、ユースケース部会長でもある保木健次様にお話を伺いました。
あずさ監査法人での仕事と暗号資産との出会い、金融機関の未来など、会員企業との交流が活発なJCBA事務局と一緒に紹介していきます。

メディアの皆様にも、ご取材やご企画のアレンジのご参考にご活用ください。

「有限責任 あずさ監査法人」HPはこちら

【fileNo.003】 有限責任 あずさ監査法人 フィンテック・イノベーション部 副部長 金融統轄事業部ディレクター 保木健次氏


インタビュアー:JCBA広報部会長 西村依希子氏

目次
1. あずさ監査法人での仕事と暗号資産との出会い
2. 今後やっていきたいこと
3. JCBAカストディ部会での成果
4. JCBAユースケース部会での活動
5. JCBA地方創生IEOの案件募集と、その可能性
5. 金融機関の未来

あずさ監査法人での仕事と暗号資産との出会い

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

あずさ監査法人ではブロックチーン関連でどのような取組をされてきましたか?

私はあずさ監査法人の金融統轄事業部に所属しています。監査法人の職員の3分の2くらいは会計士や公認会計士試験合格者で、監査・保証業務の提供が主となります。私はその中で、企業が直面する規制やビジネス展開に関するアドバイザリー業務を提供しています。領域としてはフィンテック、暗号資産、あるいは金融機関側のDX推進です。このアドバイザリー部門は、ほぼ100%中途採用で何らかの知見を持った人間になります。私の場合、前職は金融庁その前は国内外の金融機関でファンドマネージャーなどをやっていました。フィンテックや暗号資産に携わるようになったのは、あずさ監査法人に2014年に入社してからになります。

フィンテックに関与して直ぐに暗号資産にたどり着いて、フィンテックより暗号資産の方が面白いなと感じました。仕事とは離れる形で興味を持ったので、いろんなところに話を聞きにいったり、話をしたりする中で、JCBAや、業界のコミュニティの方々にも出会いました。仕事だけでやっていたらそうはならなかったと思います。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

会社では個人、それともチームで動かれているんですか?

KPMG

保木さん

チームは、最初は私のみでしたが、今はメガバンクのデジタル企画、決済代行事業者、暗号資産交換業者出身などメンバーが増えて、私がヘッドとして、業務を提供しています。そして、こういった業界と繋がりを作ることが私の役目になります。中でも暗号資産はずっと携わってきました。個人的には、暗号資産は、世界を変えるテクノロジーだと確信していますし、どっぷりつかっていこうと思っています。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

当初、会社内で暗号資産を取り扱うことに関して、反応はいかがでしたか。

KPMG

保木さん

一般企業と異なり、監査先が暗号資産を扱っている以上、法人としても対応しなければいけないという背景はありました。しかし、暗号資産は分散型台帳技術を用いており、監査やアドバイザリーを提供するにあたっても、まったく新しいガイドラインが必要となります。どこの会社でも同じだと思いますが、最初は様々な意見がありました。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

そんななか一緒に活動してくださってありがとうございます。

今後やっていきたいこと

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

今後やっていきたいことを教えてください。

日本の大手監査法人や弁護士事務所がJCBAの会員となっています。JCBAの活動に通じる部分もありますが、資本市場のインフラを担う者として、ビジネスに取り組みやすい環境の整備に貢献できればと思っています。

ここからは個人の意見でもありますが、私は暗号資産は次の産業の柱になると考えています。現状は、諸外国が一歩先を行っていることは確かですが、それでも規制を適正化してイノベーションを起こしていけば、日本もまだまだ暗号資産産業の一角を担うプレイヤーを生み出せると思います。

今JCBAでやっているような活動をサポートしていきながら、ユースケースの創出の一助になれればと思います。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

ユースケースを作りたいとか、これをやりたいとかあれば、積極的に話は聞いてもらえるのですか?

KPMG

保木さん

はい。必要なリソースはJCBAの会員ネットワークを使えばいくらでも手に入ると思います。やる気がある人さえ見つかれば、ユースケースを作れると思います。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

さきほど日本がリードできるはずだったとありましたが、結構創世記からこの業界にいらっしゃる中で日本に限らず暗号資産業界に今思うことはありますか?

KPMG

保木さん

各国の当局にとって扱いづらいものであることは認識の通りです。また、取引所の脆弱性や資金洗浄の問題も指摘されています。しかし、新しい産業を生み出すポテンシャルを持つ技術であり、ユースケースが生み出される前に、規制が先に厳しくなってハードルが上がっていくのははがゆく感じます。こんなイノベーティブな使い方が出来るのだということも見せられるよう、尽力していきたいです。

JCBAカストディ部会での成果

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

JCBAではどのような活動をされていますか?

暗号資産業界でこれだけのプロが揃っている団体は他にないと思います。そういった協会のリソースを活かして、連携をしています。

今のユースケース部会長の前には、カストディ部会長もやらせてもらっていました。暗号資産のカストディについて規制が入るというタイミングで、業界から懸念の声が挙がり相談を受けました。そこで、一旦非公式の勉強会を立ち上げて、最終的に情報発信をどうするかというタイミングで、JCBAの部会として公式化し、JCBAで報告書を取りまとめることが出来ました。その過程において、当局とも意見交換の機会を頂くことがありました。結果として、カストディについては、誤解のないように関係者各所に周知できたと感じています。JCBAの活動として、大きく成功した出来事だったと思います。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

なるほど、JCBAとして活動して関係各所と意見交換を行い、結果がでたというわけですね。

JCBAユースケース部会での活動

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

ユースケース部会長としても活動されていますが、ユースケース部会の活動や、メンバーはどのようになっているんですか?

 

部会の活動は、会員のメンバーや、ユースケースに繋がる情報をもっていそうな人たちと連携して活動しています。私みたいな監査法人の人間もいれば、暗号資産交換業、新しいテック系の企業、暗号資産に精通している弁護士などがいます。こういったチームを組んでひとつの目標にやれるのは、ありがたいことだと思いますし、JCBAならではだと思います。

デジタル化が進む中で、不可逆的な流れがオープンイノベーションだと思っています。デジタルの世界では、顧客のニーズを満たすという点で、自前のリソース、サービス、製品だけで、ニーズを満たすのはまず無理です。そのため、事業者間で連携を行い、自分たち自身も既存ビジネスだけではなくて、これまで手掛けていないビジネスを手掛けていくというような流れを作っています。顧客ニーズに寄り添うほど、行きつくのはオープンイノベーションだと思います。いろんな課題を解決するために必要なアイデア、知恵を持っている人たちを寄せ集めて解決するのは、必要な流れになってきています。今回その事例のひとつとして、ユースケース部会のチームがあるのだと思います。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

ユースケース部会では、ユースケースの取り纏めもやっていますが、沢山の情報がある中で、どんなものを集めているのですか?

皆さんと同じだとは思いますが、何か特別一つのソースを調べているわけではなく、いろんなニュース、SNSを利用する中で情報は入ってきますし、自分で気になる情報があれば検索して、深堀りしていく中で、知見が深まっていきます。そういった情報を、何かあったときに思い出して、とりまとめるということで、今の活動もそのような状況です。

とりまとめの視点については、普段からなぜ暗号資産が日本で普及しないのか、問題意識を持っていたので、そういったニュースが必然的に頭の中に入ってきて、報告書を取り纏める際はそれをピックアップしていました。報告書では3つ視点があって、暗号資産決済、一般企業がインフレヘッジとして暗号資産を持ち始めていること、投資対象として機関投資家が入ってきていること、があります。こういった流れは、日本では起こってないですが、海外では起こっている、そういったコントラストが見えてきているので、その辺を中心に取り纏めをしました。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

保木さんから見ても、やはり日本から発信できるものは今はないのでしょうか?NFT、コンテンツなどはどうでしょうか?

KPMG

保木さん

日本は、ゲーム、アニメなどのコンテンツはまだまだ強いですし、デジタル化の相性も良いと思います。ただこれをどうやってビジネスに結び付けて、日本の強みに変えていくかは気を付けないと、旨味は全部海外にいってしまう可能性があります。上手くビジネスを構築する必要があります。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

NFTマーケットについては、持てる権利関係がまだはっきりしていない面もあります。いろんな権利も、NFTとは分離した話になります。なので、まだどうにもやり方がむずかしく、皆見切り発車でみんなやっているように感じます。ゲーム内とかクローズドであればいいと思いますが、その辺はどうでしょうか?

KPMG

保木さん

ヒントになるのは、セキュリティトークンだと思います。一番大きな課題だったのが、トークンは移転して、当事者同士は移転したことに出来るが、ネットワーク外の第3者対抗要件が構築できません。なので、トークンの移転と、法的な所有権移転をリンクさせないと、結局流通しません。そんな中で、ある信託銀行の取組がありますが、これは名簿を書き換えれば所有権が移転する枠組みを使っています。これは、信託銀行がその課題を解決したひとつの成功事例だと思います。

JCBA地方創生IEOの案件募集と、その可能性

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

次にユースケース部会での地方創生IEOの公募の件をお伺いします。自治体でユースケースを作るということで、JCBAのチームが立ち上がりましたが、ご説明をお願いします。

 

自治体、公益財団法人、地域企業が、暗号資産を使って資金調達するのは地方創生と相性がいいと思います。従来の有価証券による資金調達の手段は、大口の資産で、買えるのは大口の投資家です。でも暗号資産を使えば、より少額の投資から始められるのがメリットです。これまでの有価証券では資金調達出来なかった人たちに資金調達の機会をもたらすことができます。もうひとつは、これまでの有価証券では投資家にとって収益率が金融商品の選択の尺度だったのが、事業に対する共感だとが、その地域のファンだとか、応援するという尺度で投資できる機会を持てるのがもう一つの大きなメリットです。つまり、少額の資金調達と、小口の投資を繋ぎ合わせ、かつ収益率以外の観点から、資金を調達できる。これは地域創生と相性がいい。これまでは収益率の高いものしか証券会社は取り扱わなかったが、そうではなくて、たとえば、アニメの聖地など地方に対する愛着、ファンとして投資できる。地方も資金調達ができますし、投資家もこれまでにない投資機会が得られる。これはお互いにとってこれまでにない投資、資金調達の手段が得られます。トークンがもっている有益な機能は、社会課題の解決に繋がると思っています。こういった事例は、これまで実例がありません。それは、規制面の影響もあるが、そもそも、自治体、企業がこういった資金調達手段があることを知らないこともまず課題です。今回の応募を通じて、まずそこを知ってもらいたい。その中で、投機ではない暗号資産の価値について、ユースケースを生み出していきたいです。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

なるほど、トークンを使って新たな投資機会が得られるのですね。公募の感触はいかがでしょうか?

KPMG

保木さん

反応としては全くのゼロではないです。ひとつひとつ丁寧に対応していく中で認知度が高くなって、何かをきっかけに大きく広がると思うので、そこまでは地道に頑張るしかないと思います。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

どのような自治体に知ってもらいたいですか?

KPMG

保木さん

例えば、これまで地方債の発行ができず、寄付額も少なく、資金調達が難しかったような自治体にこのような手段もあるのだと知ってもらいたいです。まだまだこれからなので、こういった広報活動で皆さんに知ってもらいたいです。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

トークンを活かせるスキームを一緒に検討していくわけですか?

現行の資金調達のスキームは、ある程度まとまった資金を調達することを前提としています。個人から数千円ずつ投資してもらって、数万円、数十万円の規模で資金調達することを前提としていません。しかし、トークンの特性を活かせるマーケットは、さきほどご説明した少額のものだと思っています。なので、いかに安く発行して、売買できるかそのスキームを考えていきたいです。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

そうですよね。ユースケースを小さい規模で、どうやっていくのかそのスキームを含めて考えていきたいってことですね。

金融機関の未来

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

普段ビットコインの価格とか見られますか?

ビットコインを中心に価格を確認しています。私は、ビットコインは、将来的な国際通貨になり得る可能性を秘めていると考えています。今は不換紙幣ですが、かつて中央銀行が金本位制のもとで兌換紙幣を発行していました。

極端なことを言えば、ビットコイン本位制というのも考えられます。全員がビットコインを直接決済に使うわけではなく、ビットコインを裏付けにして発行したトークンを決済に使うというわけです。例えば、各国がビットコインを裏付けにして、各国のステーブルコインを発行することも技術的には可能です。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

ビットコイン本位制、面白いですね。そういった思考になったのは、テック好きとかいうのがあるのですか?

それほどテックに詳しくありません。ただ、2015年前後から、ビットコインが存在感を強めてくるとは思っていました。改ざんできない性質で、ニーズもある。加えて各国で止められない動きだと理解しました。様々な課題は山積しているものの、事実として暗号資産の利用者はここ数年で増加しています。もっと進んで、消費者が当たり前に暗号資産に用いる時代がくれば、暗号資産は国際通貨の一つになりえます。そうなると、分散型金融のプラットフォームに移行するので、世の中一変すると思います。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

そうだとすると、金融機関などはどうなるのでしょうか。どのようなビジネスになるのでしょうか。

ビジネスの中身はガラッと変わると思います。既存のビジネスだけでは生き残れず、次の世界に生き残れるビジネスモデルに変化する必要があります。

単なる金融仲介ではなく、金融機関は顧客ニーズに合わせて、必要な機能を提供する方向に行くことになります。このような変化は金融に限りません。金融と、非金融の垣根が崩れて、必要な機能をその人ごとにカスタマイズして、提供することが出来る企業が一つの生き残るビジネスモデルになります。そのため顧客接点をもてるのは、デジタルの世界になって、限られた企業に集約され、その企業になれるかどうかです。顧客接点を持つためには、いろんな商品を揃えないといけないし、それを安価でカスタマイズでき、そしてビッグデータを活用し、顧客のニーズ把握を行い、サービスを提供する必要があります。自分でサービスを持っていなければ、他の企業と連携してサービスを拡充することも重要です。今の金融機関はまさしくトランスフォームの過渡期といえます。

JCBA広報部会長 西村依希子

西村

引き続き今後の動向に注目ですね。本日はありがとうございました。

KPMG

保木さん

ありがとうございました。

 


 

保木 健次 (フィンテック・イノベーション部 副部長 金融統轄事業部ディレクター)
JCBA カストディ部会部会長・JCBA ユースケース部会部会長
大手金融機関および外資系資産運用会社において日本株のファンドマネジメント業務等に従事。2003年、金融庁に入庁し、証券取引等監視委員会特別調査課、米国商品先物取引委員会(CFTC)への出向、金融庁総務企画局市場課、経済協力開発機構(OECD)への出向、金融庁総務企画局総務課国際室の業務に従事。
2014年、あずさ監査法人に入所。店頭デリバティブ規制等および暗号資産を含むフィンテック等に係る金融規制に関する各種アドバイザリーサービスに従事。

西村 依希子 (JCBA広報部会長)
東京大学法学部卒。日本暗号資産ビジネス協会広報部会長。
株式会社マネーパートナーズ入社後為替ディーリング業務に従事。2015年当時FinTech推進グループリーダーとして東証一部上場グループの金融機関で初めてBitcoinを扱うことを世間に宣言。2016年業界団体として一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)を立ち上げ国内取引所間の連携を開始、その後、国内外の多くの取引所、ブロックチェーンプロジェクトと親交をもつ。FinTech推進室グループリーダー、広報・新規事業推進室長を経て、現在、社長室長を歴任。一般社団法人 日本暗号資産ビジネス協会では事務局を約2年間単独で務めた後、現在、JCBA広報部会長。他、MVL(シンガポール)・Medibloc(ソウル)・Waves(モスクワ)アドバイザー。

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日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)では、暗号資産業界発展のために、様々な取り組みを行っています。各種お問い合せにつきましてはお気軽にご連絡ください。

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