Hong Kong FinTech Week 2023に
参加してわかった
香港がWeb3「ハブ」になれる理由(後編)

  1. その他

Hong Kong FinTech Week 2023に参加してわかった、香港がWeb3「ハブ」になれる理由(前編)では、Hong Kong FinTech Week 2023(HKFTW2023)期間中のメインイベント(2023年11月2〜3日)での様子をお伝えした。

JCBAは今回、重点企業誘致弁公室(OASES)様によるプログラムに参加させていただいたが、その中にはHKFTW2023への参加のほか、OASES様を中心とした香港特別行政区政府(以下、「香港政府」)によるWeb3関連企業へのサポート内容に関するプレゼンテーションや、香港政府が出資するイノベーション関連施設であるサイバーポート(Cyberport)、同じく香港政府が出資するインキュベーション施設である香港サイエンステクノロジーパーク(HKSTP)への訪問が含まれていた。

日本政府は、2022年6月に閣議決定された、いわゆる「骨太方針2022」を機にWeb3への本腰を入れ始めた。香港政府も、2022年10月に李家超(John Lee)行政長官が発表した施政方針演説に基づき、重点産業分野の代表的企業や有望企業を世界各地から誘致し、事業の立ち上げや拡大を促すため、2022年12月にOASESを設置した。日本も香港も、ほぼ同時期に政府としてのWeb3環境整備に取り組み始めたわけだ。

国内においては、2022年1月に自由民主党デジタル社会推進本部が「web3プロジェクトチーム(web3PT)」が設置され、web3PTを中心に実際の議論・検討が進んでいる。一方、香港においてはいくつかのプレーヤーが核となって香港でのWeb3産業を支援している。その内容を、順にご紹介していく。

サイバーポート(Cyberport)

サイバーポートは、香港政府が全額出資し、デジタル技術の「ハブ」となるべく設立された、イノベーション推進施設だ。サイバーポートの主眼は、「デジタル技術の活用」にあり、フィンテック領域のほか、NFTやメタバース、eスポーツなどのデジタル・エンターテイメント領域や、教育やESGに関連する「スマートシティ」領域をカバーする。そのコミュニティメンバーの数は、実に2,000社を越える。メンバーの一例としては、アニモカ・ブランズ(Anioca Brands)や香港最大のバーチャル銀行であるZAバンク(ZA Bank)、香港で初めてリテール向けの暗号資産取引所ライセンスを取得したハッシュキーグループ(HashKey Group)など。抱えるユニコーンは、計8社。

なお、コミュニティメンバーのうち900社以上は施設内に入居しているが、残りの1,100社程度は入居していない。その理由は、サイバーポートが提供するインキュベーションプログラム(Incubation Programme)(※1)にある。このプログラムに合格した企業は、24ヶ月間で最大50万香港ドル(約1,000万円)の資金援助のほか、施設内の様々な施設の無償利用やサイバーポートの有する投資家コミュニティ内でのネットワーキングの機会の提供が受けられる。また、その後もアクセラレーターサポートプログラム(Accelerator Support Programme)や市場開発サポート制度(Market Development Support Scheme)も利用することで、合計最大100万香港ドル(約2,000万円)までの資金援助が受けられる。驚くべきは、これらの支援はあくまで助成金としてのものであり、出資ではないため、プログラム参加企業は経営の自由度が奪われることがないという点だ。非常に手厚い支援内容となっている。

それ以外にも、アントレプレナーシップ・プログラム(Entrepreneurship Programme)や人材育成・開発も行うほか、VCとしての側面を持つサイバーポート・マクロファンド(Macro Fund)は、これまで計27社に対して約17.6億香港ドル(約350億円)を投資してきたとのこと。

Web3分野は、直近のサイバーポートによる取り組みの中でも一層注力しているようで、2023年1月には、「Web3ハブ」(上記左側の写真)がサイバーポート内に設置されたほか、2023年2月にはWeb3発展のために香港政府から5,000万香港ドル(約10億円)の追加出資を受けた。すでに200社以上のWeb3関連企業をメンバーに抱えており、それら企業のファウンダーの4割程度は香港外からの出身。(中国本土含む)なお、香港・中国国外からの出身者は現在全体の1割程度。

(※1)https://www.cyberport.hk/en/about_cyberport/cyberport_entrepreneurs/cyberport_incubation_programme

政府から調達した資金を投じ、Web3関連イベントの開催や後援も積極的に行いつつ、中国本土及び海外との連携も欠かさない。プレゼンテーションを聞いていると、まさにWeb3のエコシステム全体を多方面からサポートしようというサイバーポートの姿勢が伺えた。

上記の写真からも感じ取っていただけるだろうが、施設全体はかなり新しく、綺麗に整備されており、窓も大きいため非常に開放的な印象を受けた。入居されている企業の従業員からしても、こういった環境で仕事ができるとすれば、集中できること間違いなしだろう。

重点企業誘致弁公室(OASES)

OASESは、Office for Attracting Strategic Enterprisesの略であり、重点産業分野の代表的企業や有望企業を世界各地から誘致し、事業の立ち上げや拡大を促すため、2022年12月に新設された香港政府の一部局。重点産業分野とは、特に生命・健康科学、人口知能・データサイエンス、フィンテック、先進製造・再生可能エネルギーの4分野。

香港には、現在800社以上のフィンテック企業が進出しているが、うち2社(HashKey GroupとOSL)が暗号資産取引プラットフォームのライセンス、13社がノンバンクとしてのストアード・バリュー・ファシリティー(SVF)ライセンス(※2)、4社が銀行としてのSVFライセンスをすでに取得している。ライセンス制度をはじめとして、香港の金融サービス業界においては、コンプライアンスが強く求められるものの、OASESは、海外のWeb3関連企業が香港市場を開拓する際に直面する課題や障害について相談に乗ることを重視している。香港での事業展開の際には、ビザの申請や、インキュベーターとのコネクション、香港政府による助成金プログラムに関する情報、関連省庁との連携等についても案内が可能とのことだ。

また、香港の規制当局は、フィンテック企業のための様々なユースケースシナリオを構築するために、様々な取り組みやインフラを打ち出している。例えば、香港金融管理局(HKMA)は、新しい取り組みとして、今年初めの香港政府によるブロックチェーン上でのグリーンボンド(発行額:8億香港ドル)の発行を支援し、清算・決済プロセスを合理化するだけでなく、ブロックチェーン上で資金の利用をより効果的に追跡し、グリーンウォッシュを回避できるようにするため、グリーンボンド・トークナイゼーション・イニシアチブを提唱した。他にも、規制サンドボックス(Regulatory Sandbox)を整えており、金融・フィンテック分野での実証・実験が可能な環境が用意されている。

補助金制度もかなり手厚い。例えば、起業支援制度においては、R&Dプロジェクトを支援するため、企業に対して最大1,000万香港ドル(約2億円)の補助金を提供するほか、研究人材の採用に際して、採用する学生の学位によって最大3年間の賃金助成金が用意されている。(博士課程:月額3.5万香港ドル、修士課程:月額2.3万香港ドル、学士課程:月額2万香港ドル)その他にもR&Dに関する補助金制度が多く備えており、手元資金の少ないスタートアップでも香港でビジネスが営めるような環境があるのは非常に魅力的だ。(詳しい内容は、記事最下部のOASESまで)

(※2)2016年に開始された、電子ウォレットやプリペイドカードなどの発行に関するライセンス制度。香港金融管理局(HKMA)の認可が必要。「決済システム及びSVF条例」2Aによれば、当該ファシリティが(1)随時払い込まれた金銭の価値を保管でき、かつ(2)当該ファシリティの規約に基づき、金銭の価値を保管することができること、あるいは、(1)別途規定される発行者の約束に基づき、商品またはサービスの対価を支払う手段(2)別途定める発行者の約束に基づき、他人への支払いを行う手段のいずれかまたは両方に用いることができる場合、そのファシリティはSVFに該当する。https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap584

香港サイエンス・テクノロジーパーク(HKSTP)

HKSTPは、香港政府全額出資のもと2002年に設立された、大規模な研究開発施設だ。サイバーポートと役割は似ているが、HKSTPは、よりR&D(研究開発)に舵を切っており、1,000社程度の企業がHKSTPにて研究開発を行っている。

航空写真から、広大な敷地と緑の多さを見てとっていただけると思うが、サイエンスパークという名前だけあって、広大な公園というか、大学施設に入ったような気分。実際、道路を挟んで向かい側には、世界の大学ランキングでも常連の香港中文大学がある。香港中心街からも中国本土(深圳)からもMTR(地下鉄)でそれぞれ約30分という利便性の高い立地が特徴だ。(なお、年初には深圳支店(※3)が開設された)

HKSTPも、サイバーポート同様に独自のインキュベーション・プログラムを有しており、これまで1,000社以上のアーリー〜ミドルステージの企業を育成してきた。これまで計12社(香港企業が6社、海外企業が6社)のユニコーンが誕生している。

HKSTPが重視するエコシステムは、特に広義の「AI」であり、機械学習やデータ分析だけでなく、ヘルスケア、自動運転やロボティクス、フィンテック(Web3はここに該当)なども含まれる。入居企業の半数以上がこれらAI関連の事業を営む。

(※3) https://www.hkstp.org/hong-kong-and-beyond/greater-bay-area/hkstp-shenzhen/

HKSTPでのサポートも手厚く、企業によるアイデア出しの段階からユニコーン化まで、企業成長における幅広いフェーズを独自のプログラムやファンドによって支援しているところは、サイバーポートと同様だ。

HKSTPのアクセレレーション・プログラムでは、70社ものポートフォリオを抱えており、これまで計4億米ドル相当(約600億円)の投資を行ってきている。また、2015年に設立されたベンチャーファンドにおいては、現在10億香港ドル相当(約200億円)のAUMを誇る。基本的な投資スタンスとしては、リードインベスターとはならず、1,000社以上にわたるVCパートナー等の投資家ネットワークを活用・紹介しつつ、自らもサポートするものだ。資金調達だけでなく、HKSTP内の企業のニーズを受けて、それにあったマッチングを行うことが彼らのミッション。

サイバーポートもHKSTPも施設が非常に綺麗で、どちらも遜色ないビジネス環境が整っていた。支援の内容については、各機関に問い合わせていただき、比べてもらいたいが、施設全体の雰囲気としては、サイバーポートがより都会的で、HKSTPはリベラルアーツの大学キャンパスのようなイメージだった。参考にしてもらえれば嬉しいが、ぜひ足を運んで実際に自分の目で見てもらいたい。

グレーター・ベイエリア(GBA)や中国本土への足掛けとしての香港

GBAとは、南シナ海に面した、香港やマカオ、中国広東省の主要都市を総称したベイエリアのこと。GBAの総人口は、2020年時点で8,600万人以上、GDPは1.67超米ドル相当(約250兆円)であり、一大経済規模を誇る。

日本を含む海外の企業からしてみれば、一足飛びに中国本土やGBAに進出するのは、言語だけでなく、規制面、文化面でのハードルが非常に高い。一方、香港であれば、英語も公用語である上、規制もグローバルの潮流に近い形で整えられていることから、最初は香港を足掛けに、その後HKSTPの深圳支店等も活用しながら、少しずつ中国本土への進出の手がかりを探っていく、というのが香港の上手い活用方法のように思う。

従って、地理的優位性のみならずビジネス的観点から見ても、まさに香港は、海外とGBAや中国本土とを繋ぐ「ハブ」となり得るし、香港政府がWeb3産業に対して本気で投資し始めている今、企業にとってみても、絶好のビジネスエリアとなり得るのではなかろうか。

サイバーポートやHKSTPの見学を終えてみて感じたのは、やはりまだまだ香港出身、あるいは中国本土出身の企業が割合としては多いということ。しかしながら、筆者にしてみれば、これは海外企業にとってのチャンスに思えた。なぜなら、昨年末のOASESの設置からもみてとれるように、香港政府は今海外からの企業進出・投資を全力で歓迎している。Web3推進が国策となっており、支援制度が整っているのであれば、(海外出身の)マイノリティとして目立てるうちに進出すべきではなかろうか。

改めて、HKFTW2023や香港政府の各機関への訪問を通して、香港の今現在を肌で感じることができたのは貴重な収穫だった。少しでも、そのリアルな姿が読者の方に伝わっていれば幸いだ。

最後に、サイバーポートとHKSTPによるプログラムやリリース内容を一部紹介する。興味をお持ちの方は、ぜひご覧いただきたい。

サイバーポートとHKSTPによる取り組み、サポート内容

また、本件に関連して詳しい内容が聞きたい場合は、ぜひ以下にお示しする各機関まで直接ご連絡いただきたい。

問い合わせ先

インベスト香港(東京事務所)※日本語対応可
https://www.hketotyo.gov.hk/japan/jp/business/invest/

重点企業誘致弁公室(OASES)
https://www.oases.gov.hk/en/contact-us.html

サイバーポート(Cyberport)
https://www.cyberport.hk/en/about_cyberport/contacts

香港サイエンス・テクノロジーパーク(HKSTP)
https://www.hkstp.org/contact-info/

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